【悲報】Ryzen 9000「Dual X3D」192MBキャッシュ最強CPUは偽情報だった!?AMDの「作れるが作らない」決断の裏側
2025年8月4日、ハードウェアリーカーの「チーレッドドッグ」が衝撃的な情報を投稿しました。16コア32スレッドのTDP、そして脅威の192MBのL3キャッシュを搭載するRyzen 9000 X3D CPUの存在です。この噂のプロセッサーは、AMDが初めて両方のCCDに3D V-Cacheを実装したデュアルX3D構成として、エンスージアストたちの期待を一心に集めました。しかし、その後の展開は予想外の方向へと進みます。過去にRTX 5090の価格を正確にリークし、Ryzen 7 9800X3Dのスペックも的中させた名リーカー「WJM47196」が、チップヘルフォーラムで爆弾発言を投下したのです。
噂の詳細検証:192MBキャッシュの夢は幻に
問題のCPUは、各CCDに標準の32MBキャッシュに加えて64MBの3D V-Cacheを搭載し、合計で各CCDあたり96MB、全体で192MBという前代未聞のL3キャッシュ容量を実現するとされていました。現行のRyzen 9 9950X3Dが片方のCCDにのみ3D V-Cacheを搭載して128MBなのに対し、この構成なら64MBもの追加キャッシュが得られることになります。TDPは200Wと9950X3Dの170Wから30W増加する設定で、これはAM5プラットフォームの上限に近い数値です。価格は799ドルから999ドル程度と予想され、現行の699ドルから大幅な値上げとなる見込みでした。
しかし、WJM47196は簡潔に「FAKE. It’s no such thing.(偽物。そんなものは存在しない)」と述べ、この噂を完全に否定しました。彼の過去の実績を考慮すると、この発言の信憑性は極めて高いと言えます。実際、WCCFTECHやTom’s Hardwareなどの大手メディアもこの否定を受けて記事を更新し、Dual X3D CPUの存在に疑問符をつけています。興味深いことに、同じWJM47196は2026年にRyzen 7 9700X3Dという低価格版8コアX3D CPUが登場する可能性には言及しており、これは9800X3Dよりも低いクロック周波数で動作し、450ドル以下の価格帯を狙った製品になるという。
技術的な実現可能性と性能向上の限界
AMDの技術者たちは2025年1月のCES 2025で、X3D構成について興味深い発言をしています。HardwareLuxxの取材に対し、「技術的な理由や課題は存在せず、両方のCCDに3D V-Cacheを搭載することは完全に可能だ」と明言しました。しかし、問題はそこではありません。ゲームアプリケーションの多くは単一のCCD内でスレッドを実行するよう最適化されており、CCD間のレイテンシは依然として高いままです。Infinity Fabricを介したCCD間通信には大きな遅延が発生し、別のCCDのキャッシュにアクセスすることは現実的ではありません。
ドイツの技術分析サイト3DCenterが行った詳細な検証によると、仮にデュアルX3D構成が実現したとしても、ゲーミング性能の向上は現行の9950X3Dと比較してわずか4%程度にとどまると予測されています。この数値は、過去のX3D製品が示してきた20%から30%という劇的な性能向上と比較すると極めて控えめな数字です。現代のゲームエンジンの多くは8コア程度までしか効率的に活用できず、それ以上のコアは遊休状態になることが多いのです。
経済性の壁:「作れるが作らない」決断の理由
Dual X3D CPUが実現しない最大の理由は、純粋に経済的な観点にあります。3D V-Cacheチップレットの製造は極めて高コストで、TSMCの先端プロセスと複雑な3D積層技術を必要とします。先行の9950X3Dでさえ699ドルという高価格帯に位置していますが、両方のCCDに3D V-Cacheを搭載すれば製造コストは大幅に上昇します。業界関係者の推定では、Dual X3D構成のCPUは最低でも799ドル、おそらく999ドル以上の価格設定が必要になるといいます。
この価格帯はすでにThreadripper 7960X(24コア1499ドル)などのHEDT製品に近づいており、一般的なゲーマーやエンスージアストにとっては手が届きにくい領域です。さらに問題なのは、この追加コストに見合う性能向上が得られないことです。4%の性能向上のために300ドル以上の追加投資をする消費者は極めて限定的でしょう。AMDもこの点を十分に認識しており、「そのようなプロセッサーは単純に高価すぎて、ゲームは第2のCCDの3Dキャッシュから十分な恩恵を受けない」と公式に述べています。
AIの所感
Ryzen 9000「Dual X3D」の噂が偽情報であったという今回の件は、半導体業界における技術的な実現可能性と、経済的な合理性のバランスの難しさを浮き彫りにしました。AMDの技術者たちが「作れる」と明言しながらも「作らない」という決断を下した背景には、単なる性能向上だけでなく、コストパフォーマンス、市場の需要、そして製造の難易度といった多角的な視点からの検討があったことが伺えます。
特に、ゲーミング性能の向上率がわずか4%に留まるという予測は、いくら技術的に可能であっても、それが市場で受け入れられる製品となるかどうかは別問題であることを示しています。AMDは、既存のX3D技術の改良と最適化を続けることで、より手頃な価格で高性能を提供する方向に進化していくと考えられます。この「作れるが作らない」という決断は、技術の進歩が常に直線的ではないこと、そして市場のニーズと経済性が、最終的な製品化の可否を決定する重要な要素であることを私たちに教えてくれます。