【IFA 2025】AMDが語る「完璧なPC優先」と「AIはまだ過小評価」Ryzen命名の迷いとRadeon Nowの真意
IFA 2025でAMDは新製品発表ではなく、その哲学を打ち出しました。AIはまだ過小評価であり、その進化は数年後に本格化するという見解を示し、だからこそまずはCPU、GPU、NPUを組み合わせた「完璧なPC」作りを優先すると表明しました。また、ゲーム配信のRadeon Now構想は明確に否定し、パートナーの基盤を支える役割に徹する姿勢を見せています。
AIはまだ過小評価:完璧なPCがAIの土台
AMDはIFAの場で「AIはまだ過小評価だ」と語りました。派手なデモやチャットAIの人気は入り口に過ぎず、本番はテキストから動画へ、そして完全ローカル実行へと使い道が広がると強調。そこで鍵になるのがPCの土台作りだとしました。CPU、GPU、NPUの役割を分担し、電力あたり性能を最大化し、必要十分なメモリ帯域を確保して、日常のアプリが自然にAIを呼び出せるようにする、というビジョンです。NPUはCPUやGPUの代わりではなく、電力効率で勝る「千人エンジン」という整理も明解です。
大量のNPUが市場に出回れば開発者はNPU向け最適化に時間を割き、AIアプリのローカル実行が標準になる。同時に「X86は省電力で戦えない」という思い込みにも反論し、最近のRyzenノートが長時間駆動を実現していることを強調しました。このロードマップは、派手なTOPS競争よりもPC全体の体験を底上げする現実路線であり、「まずは完璧なPCを作る。その上でAIを重ねる」という順序は、セキュリティやプライバシーを理由にクラウド依存を避けたい個人や企業の期待にも沿うものです。
Radeon Now構想の真意:パートナーシップを重視
度々話題になるRadeon Nowはあるのかという問いには、今年もきっぱりと「ない」と回答。AMDはクラウドゲームの直接運営に踏み込まず、パートナーの基盤にCPUやGPUを供給する側に徹する姿勢を明確にしました。これは「やらない」という否定ではなく、「選ぶ戦場を絞る」という意思表示です。配信サービスは権利処理、地域ごとのネットワーク品質、課金やサポートなど、半導体企業が得意とする領域を超える重たい運用がつきまといます。そのリスクを取るより、PCやサーバーのプラットフォームを磨き、どの配信事業者でも最高の性能が出るよう最適化を進める、という戦略です。
ユーザー目線では、AMDが自社サブスクを出さない代わりに、ゲーム配信の選択肢は事業者ごとに競争しやすくなります。また、AMDがローカルAIを重視するのもこの姿勢とつながっています。常時クラウド前提の発想から距離を取り、家のPCで完結できる体験を太らせる。もし自宅の回線が混み合っても、生成AIによる画質補正や音声の強調、ストリームのエンコード最適化といった賢い処理を手元で走らせ、見た目の快適さを維持する、という考え方です。
Ryzen命名の迷いとFSR Redstoneの進捗
会場で最も刺さったのは名前の話です。AMDは旧世代のチップを新しい製品名として売り出すリブランディングを一概に否定せず、「今提供できる体験を売る名称だ」と説明しました。しかし、技術メディアの多くは「2025年末にZen 5を旧世代として語るのは無理がある」と厳しく指摘しており、命名の混戦は過去にも繰り返されてきました。AMD自身も整理を進めると匂わせており、今後は体験軸での訴求が増えるはずです。
FSRの次の大改良「Redstone」を2025年後半に予定しており、ローカル推論でのアップスケーリングやフレーム生成、レイトレーシングの知的な補完を狙います。先月公開されたFSR 3.1.4は、カメラを大きく振った場面で出やすい残像(ゴースト)を抑え、署名付きDLLにより今後の更新をゲーム側が取り込みやすくするなど、着実な進捗を見せています。
AIの所感
AMDのIFA 2025での発表は、単なる新製品の羅列ではなく、同社のAI時代におけるPC戦略の哲学を明確に示したものと言えるでしょう。「AIはまだ過小評価」という発言は、AIの真の価値がローカル実行によって引き出されるというAMDの確信を表しています。そして、その土台となる「完璧なPC」をCPU、GPU、NPUの連携によって実現するというビジョンは、ユーザーにとってより快適で安全なAI体験を提供する可能性を秘めています。Radeon Now構想の否定は、自社でサービスを運営するリスクを避け、ハードウェア供給に徹することで、パートナーエコシステムを強化するという賢明な判断です。Ryzen命名の混乱や市場シェアへの言及は、AMDが現実と向き合い、着実に課題を解決しようとしている姿勢を示しています。FSR Redstoneの進捗も、ゲーマーにとって朗報であり、AMDがソフトウェア面でもユーザー体験の向上に注力していることが伺えます。AMDのこの「熱量より持続力」を重視する姿勢は、AI時代におけるPCのあり方を再定義し、ユーザーに新たな価値を提供するものとなるでしょう。