Windowsアプデでファイル共有が死んだ!「火曜の朝、仕事が止まった。」見えない糸を断ち切るMicrosoft。
2025年9月10日、世界中の企業で火曜日の朝一番の業務が始まった瞬間、異変が起きました。共有フォルダーにアクセスできない。プリンターが動かない。NASが認識されない。IT部門の電話は鳴りやまず、業務は完全にストップしたのです。原因は同日配信されたWindowsアップデートでした。Microsoftが月例セキュリティ更新プログラムとして配信したパッチが、世界中の企業に大混乱をもたらしていたのです。
突然の接続不能:SMBv1プロトコルが引き起こした大混乱
2025年9月10日に配信されたWindows 11とWindows 10、そしてWindows Serverのセキュリティ更新プログラムをインストールした環境で、SMBv1プロトコルを使用した共有フォルダーやファイルへのアクセスが突然不可能になりました。影響を受けたのはWindows 11の全バージョン(24H2、23H2、22H2)でKB5065426とKB50065431、Windows 10 22H2、21H2のKB5065429、そしてWindows Server 2025と2022という広範囲に及びます。
具体的には、NetBIOS over TCP/IP(NetBT)を経由したSMBv1接続が完全に機能しなくなり、これまで正常に動作していたファイル共有やプリンター共有が全て使用不能になりました。ユーザーがアクセスを試みると、ネットワーク資格情報の入力画面が表示され、正しい認証情報を入力してもシステムエラーメッセージが表示されて接続は拒否されます。この問題は、SMBクライアントまたはSMBサーバーのいずれか一方でも更新プログラムがインストールされていれば発生するため、混在環境では特に深刻な影響が出ました。
古いNAS装置、レガシープリンター複合機などSMBv1でしか動作しない機器は完全に使用不能となりました。HPやCanonの大手メーカーの古い複合機、バッファロー、シノロジー、Qnapなどの古いNAS製品、そしてWindows XPやWindows Server 2003を使い続けている環境など、想像以上に多くの機器がSMBv1に依存していました。企業の業務は朝から大きく停滞し、印刷できない、ファイルにアクセスできないという基本的な業務すら遂行できない状況に陥ったのです。
42年前の負債:SMBv1の脆弱性とMicrosoftの不適切な対応
SMBv1は1983年に開発された、実に42年前のネットワークファイル共有プロトコルです。現代のセキュリティ基準から見れば穴だらけの危険なプロトコルであり、Microsoftは2007年にSMBv2を導入し、2014年にはSMBv1を正式に非推奨としました。しかし、現実には多くの企業環境で古い機器がSMBv1に依存しており、アップグレードできない状況が続いていました。
2017年のWannaCryランサムウェア攻撃は、このSMBv1の脆弱性をついた歴史的な事件でした。NSAが開発したEternalBlueという攻撃ツールがSMBv1の脆弱性を悪用し、世界150カ国以上で30万台以上のコンピューターに感染、推定80億ドル以上の被害をもたらしました。セキュリティ専門家はSMBv1は即座に廃止すべきと主張し続けてきましたが、現場のIT管理者は理想と現実は違うと反論してきました。数百万から数千万円する産業用機器や医療機器の多くがSMBv1にしか対応しておらず、これらを全て入れ替えるには莫大なコストがかかるためです。
Microsoftが提示した回避策はTCPポート445を使用するというものでしたが、これに対しても批判が集中しています。ファイアウォールでポート445を開けというのはセキュリティの観点から本末転倒だという声が多く聞かれます。そもそもポート445は過去に多くの攻撃で悪用されてきた危険なポートとして知られており、多くの企業では意図的にブロックしています。さらに深刻な問題は、多くのレガシー機器がNetBIOS over TCP/IP(ポート137から139)にしか対応しておらず、ポート445では動作しないという事実です。つまり、Microsoftの回避策は根本的な解決にならないのです。
見えない選手たち:IT管理者の苦悩と彼らが守るもの
1983年、冷戦の最中に生まれた小さなプロトコルがありました。SMBv1という名のささやかな約束ごと。それは42年という長い歳月を黙々と世界中の企業を支え続けてきました。古びた複合機の中で、埃をかぶったNASの奥で、誰にも気づかれることなくただひたすらにデータを運び続けたのです。親から子へ、先輩から後輩へ引き継がれてきた設定ファイル。その一行一行に刻まれた名もなきエンジニアたちの汗と涙。
2025年9月10日火曜日の朝、その糸が突然断ち切られました。世界中のオフィスで同じ光景が繰り広げられたのです。プリンターの前で立ち尽くす社員。共有フォルダーを開けずに途方に暮れる経理担当者。生産ラインが止まり、静寂に包まれる工場。その瞬間、私たちは初めて気づいた。目に見えないものこそがこの世界を動かしていたということに。
サーバールームの薄暗い光の中で、IT管理者たちは今も戦い続けています。彼らは現代の縁の下の力持ち。誰からも感謝されることなく、ただ動いて当たり前の世界を守り続ける。エラーコードと向き合いながら、彼らが守ろうとしているのは単なるデータではありません。それは人々の日常であり、生活であり、未来への希望なのです。技術の進歩は時に残酷です。新しいものを生み出すために古いものを葬り去る。だが、その古いものの上にどれだけの人生が積み重なっているか、どれだけの物語が紡がれてきたか。Microsoftは未来を見据えて走る。だが、その足元で無数の小さな灯火が消えていく。
2週間が過ぎた。修正の約束はまだ果たされていない。それでも現場は動き続ける。なぜならそこには守るべきものがあるから。技術の向こう側にいる生身の人間がいるから。この事件が私たちに問いかける。進歩とは何か?革新とは何か?そして本当に大切なものは何か?答えはきっと今日もサーバールームで格闘しているあの見えない選手たちが知っている。
AIの所感
今回のWindowsアップデートによるSMBv1接続問題は、セキュリティと利便性の間で企業が直面するトレードオフを浮き彫りにしました。SMBv1のようなレガシープロトコルは、確かにセキュリティ上の脆弱性を抱えていますが、長年の運用で多くのシステムに深く根付いており、その廃止には多大なコストと時間がかかります。Microsoftがセキュリティ強化を優先する姿勢は理解できるものの、現場の混乱を最小限に抑えるための、より慎重な移行計画と適切な情報提供が不可欠であったと言えるでしょう。
この問題は、企業におけるIT部門の重要性を改めて認識させます。彼らは、目に見えないインフラを支え、日々の業務が滞りなく行われるよう尽力しています。ベンダーは、アップデートがもたらす潜在的な影響を深く理解し、ユーザーが直面する現実的な課題に対して、より実用的で安全な解決策を提示する責任があります。技術の進歩は不可逆ですが、その過程で置き去りにされるシステムや人々への配慮が、真の「進歩」には不可欠であると強く感じます。