【悲報】数万円のGPUが「ダウンロード」で64GBに化けた。その禁じ手の裏に潜む、残酷な罠
「メモリはダウンロードで増える」——そんなのは古典的な冗談だと思っていたら、現実に起きた。暗号資産の採掘専用として投げ売りされていたNVIDIAのボードが、ソフトウェアだけの改造で8GBから64GBへと容量を跳ね上げたのだ。基盤に半田ごてを当てたわけでも、メモリチップを载せ替えたわけでもない。「CMP Unlocker」と呼ばれるツールが、鍵を開けるだけでそれを成し遂げたという。しかし、この話を面白がる前に、なぜ鍵がかかっていたのか、そして開いた先に本当に部屋があったのかを冷静に見なければならない。
同じシリコンが、データセンターと中古市場で別の値段で売られていた
舞台となったのは「CMP 170HX」。暗号資産採掘しかできず、画面すら出ない業務用の板だ。採掘ブームの終焉とともに中古市場で投げ売りされ、eBayで250ドル、日本円で言えば数万円で転がっていた。一方で、その中身には驚くべき事実がある。載っているシリコンは「GA100」といい、AI学習の世界で長く主役を張った業務用アクセラレーターA100と同じ台だ。
普通のGPUなら演算チップの周りにメモリチップが別部品として並ぶが、GA100は1つのパッケージの上に演算部とHBMというメモリが最初から同居している。つまり、8GBとして売られていた板にも、物理的にはメモリが全部載っていた。違いは「いくつを有効にしてあるか」だけなのだ。
「6つの山」のうち、いくつを開けるか
GA100のメモリは最大6つのスタックで構成される。製品によって5つあるいは6つが有効化され、それが80GBや40GBといった容量を決める。そしてNVIDIAがCMP 170HXとして公式に売ったのは8GB版と10GB版の2種類。80GB積んだ板を8GBとして売るなど、あまりに勿体ない。その理由は2つ考えられる。一つは製品の値段に段差をつけるための都合。もう一つは、品質基準を通らなかった「選別落ち」を使っているからだ。
ここが重要だ。閉じられていた理由が「価格の都合」なら開ければそのまま使えるが、壊れていたから閉じたのなら、開けても動かない。同じ鍵でも、その裏が「空き部屋」か「壁で塞いだ部屋」かで意味が正反対になる。
金庫の設計図が論文として公開された
なぜ開けられたのか。GPUには「Falcon」と呼ばれる警備用の小さなプロセッサーがいて、署名されていない書き換えを監視している。メーカーにとっては正当な防御だ。しかしその守りを破る道筋を、研究者が公開した論文が示していた。ファルコンのスタック保護を回避する手法を基に、解除ツールは再現可能な手順として成立している。つまり「一度きりの幸運」ではなく、誰でも追試できる手順なのだ。
法的な扱いは国によって異なるが、開けているのは自分が買った自分の機材であり、他人の資産ではない。もちろんメーカーの保証や利用規約からは外れる。コメント欄でも「金は受け取っておいて、使い道は差し止めるのか」という皮肉が出ていた。採掘全盛期、NVIDIAがゲーム用GPUの採掘性能を意図的に落とした「LHR」も、ソフトで制限し、後から解除され、また塞がれるという往復を繰り返した。今回も本質は同じ構図だ。
鍵は開いた。でも「部屋」があるとは限らない
理屈の上では、8GB版なら64GB、10GB版なら80GBまで開くはずだ。しかし実際にユーザーから動作が報告されている範囲で確認できているのは、40GBまでとされている。残りの半分はどこへ行ったのか。誰にも分からない。これが今回一番大事な点だ。「選別落ち」という事実が響いてくる。閉じられていた理由が壊れだった場合、開けても動かない可能性がある。
最も嫌なのは、開いた直後は動いて見えても、負荷をかけ続けると崩れる壊れ方だ。AIの学習を何時間も回して、最後の最後で落ちるパターンである。容量として見えていることと、その容量が信用できることは全く別の問題なのだ。
戻ったのはメモリだけではないが、壁は残る
この解除では、演算ユニット(SM)の性能も一部が回復するという報告がある。さらにPCIeの速度が1.0 x4から2.0 x4へと上がる。とはいえ「x4」というレーン数は、普通のGPUが使うx16と比べると桁違いに細い。部屋は64GBに広がったのに、玄関がやたらと狭いままなのだ。大きなモデルをメモリへ運び込むたび、その細い入り口を通る待ち時間が発生する。
ならレーンもソフトで開けばいいかというと、そうはいかない。NVIDIAはレーンを4本に絞った上で、基盤からコンデンサを12個分も物理的に省いている。ソフトで開く扉と、壁ごと外して塞いだ扉の違いだ。半田付けで取り返しをつけることは理屈上可能とされるが、実際に動いた例は確認されておらず、失敗すれば今度こそ本当にただの板になる。
「数万円」が「4倍」に跳ねた理由
発売当時、この板の根札は4300ドル、日本円で数十万円の業務用機材だった。用途が消えたから数万円になった。ところが解除の話が広まった途端、価格は4倍に跳ね上がったと報じられている。この中身は1ミリも変わっていない。変わったのは「鍵のありかが知られた」という一点だけだ。
正規のA100は40GB版で3500ドル前後、80GB版なら1万1500ドル、日本円で100万円を超える世界だ。それと同じものが数万円で転がっていたのだから、容量あたりの値段だけ見れば確かに破格である。ただしアンプアーはすでに2世代前の設計。メモリをいくら開けても、ホッパーやブラックウェルの計算速度や電力効率には届かない。日本で使うとなれば電気代も冷却も自腹だ。
ネットの反応
この話の一番ヤバい所は「テンサーコアの性能」なんだよ。CMP 170HX 8GBのFP16は202TFlopsで、これはRTX 4080以上、RTX 5080以下。それが250ドルで売ってたんだ。AI用途に500ドル以下のGPUを買うぐらいならコイツを買った方が百倍マシ。テンサーコアありきのNVIDIAは今後どうするんですかね?
AIの所感
この騒動は、安いGPUの話で終わらない。同じものを作ってソフトで能力を絞り、値段の階段を作るという商売は、車の加速や家電の機能、業務用ソフトの上限にまで広がっている。私たちが払っているのは「製品そのもの」ではなく、「ここまで使っていいという許可」の一部なのかもしれない。手元の機材を疑ってみるのは悪いことではないが、開いた先に本当に信頼できる容量があるかは、誰にも保証できない。当たれば数万円で64GB、外れればただの板——ギャンブルとしては掛け金が安いが、払うのはお金だけでなく「動くかもしれないという不安」でもある。

