無料ツールでRTX 50が700Wに。最新ドライバで突然塞がれた電力解放の入り口
公式には450Wが上限のはずのカードが、無料のソフトを入れただけで680Wまで出ていた。その入り口が、ある日ぴたりと開かなくなったとしたら何が起きるか。NVIDIAの最新ドライバ更新を境に、オープンソースのオーバークロックツール「mVolt+」の電力上限解放機能が動かなくなったと報じられている。ハード改造なしで上限を開けられるという異常な手軽さが人気を集めた直後の出来事だけに、更新すべきか留まるべきかという二択が自作PCユーザーの間で現実的な悩みとなっている。
mVolt+は誰でも中身を確認できるオープンソースのアプリで、MSI Afterburnerのような定番ツールが家全体のブレーカーを一段上げるように大きなつまみを1本動かすのに対し、部屋ごとに配電を組み替えるように細かく制御できる点が特徴とされる。演算部分とメモリ部分で別々に電力の枠を設定でき、電圧ロックのずらし幅を4つの区画(コア、XBAR、SYS、VRAM)に個別に指定できる。さらに内部の配線や動画圧縮用の専用部分にまで割り振れるとされ、ゲーム中は休んでいる部署の予算を忙しい部署に回すような予算配分が可能だった。
バージョン615.56で何が起きたか。触ると落ちるという症状
問題を起こしているとされるのはバージョン615.56のドライバで、mVolt+で電力の上限を動かそうとした瞬間にドライバが落ちるという症状が報じられている。単に効かなくなるだけで済まず、触った瞬間に画面が真っ暗になり作業もろとも消えるという挙動だ。効かないだけなら入れても反映されないだけで済むが、今回は操作そのものが引き金になっているため、むやみに再現を試すこと自体がリスクになる。
時系列を整理すると、まずmVolt+が公開されハード改造なしで上限が開くという話が広まり、熱心な層の間で一気に人気が出た。そこへ新しいドライバが配信され、機能が止まったという流れだ。作者は「00z」というハンドルの人物で、オープンソースであるため手を入れられる立場にある。噛み合わせが崩れただけであれば、更新でまた通る見込みもある。
680Wという数字の重さ。450Wが上限のはずが小さなPC1台分を上乗せ
記事の事例ではASUS ROG Astral RTX 5080が680Wに届き、公式のオーバークロック設定でも450Wまでしか許していないカードで230Wもの上乗せが確認された。230Wは小さなPC1台分に相当し、グラボの上にPCがもう1台乗っている計算になる。別の報告ではRTX 5090がゲーム中に650Wから700Wを引いていたとされ、それまで450Wほどだった環境からの大幅な増加だ。
国内相場でRTX 5090は40万円前後から上位では50万円を超える水準で、そこに電源や配線の増強コストが乗る。増えた電力はほぼそのまま熱になるため、夏場の排熱や電気代、電源ユニットの余裕も問われる。肝心の性能の伸びはわずかだったとされ、5割も電力を増やしてわずかな伸びでは割に合わないという指摘もある。電力を足しても先に熱の壁や回路が安定して動ける速さの壁に当たるため、最後のひと伸ばしは常につも高くつく。
なぜ割に合わないのに人気だったのか。ベンチマークという別の報酬
割に合わないのに支持された理由は、ベンチマークという別の報酬にある。3DMarkのような性能測定ソフトでは世界中の順位表があり、mVolt+を使えばソフトだけでその順位表に乗れたという。基盤改造というハードウェアの世界だった領域に、ソフトだけで並べたことが大きな意味を持った。1秒縮めるために何万円もかけて自転車を軽くするような、限界に触れること自体が目的の遊びだ。ハンダゴテを握った人と同じ表に名前が並ぶという体験は、費用対効果では説明しきれない価値を持つ。
一方で、680W出せば熱が出ると心配する声と同時に、工場出荷で盛りすぎた設定のRTX 5070が特定のゲームでだけ画面が真っ暗になったという逆の体験談も寄せられている。古いGTX 690でも同様で、推奨設定まで下げることで安定したという。上げるための道具だと思われていたものが、メーカーが盛りすぎた設定を戻すためのブレーキとしても使われていたという裏返しだ。上げても伸びがわずかなら、むしろ下げる側に活路があるという見方も成り立つ。
塞がれたのは意図的か相性か。Hydra 2.3B Proは生きているという報告
多くの人が飛びつく結論は「NVIDIAが意図的に潰した」というものだが、記事自身が意図的な塞ぎ方なのか相性の問題かは分からないと明記している。判断を難しくするのが、別のツール「Hydra 2.3B Pro」なら今も電力上限の変更が通るという掲示板の報告だ。書き込みベースで検証度は低いものの、もし本当なら全てを封じたわけではなく、1本の道が通れなくなっただけで隣の道はまだ通れていることになる。橋を落とされたのか1本が工事中なのか、区別はつかない。
重要なのは犯人探しではなく、自分のPCをどうするかという選択だ。まだ最新のドライバを当てていないなら、電力をいじっている場合は当てた途端に使えなくなる可能性を織り込む必要がある。新作ゲームが最新ドライバを求めるならそちらを優先する判断もありうる。当ててしまって不調な場合は、触ると落ちる以上は再現を試さず更新を待つのが穏当だ。電力をいじっていない層には直接の影響はないが、上限の考え方を知っておくことで不安定時の切り分けに役立つ。上げるだけでなく下げる手もあるという知識は、いざという時に効いてくる。
ネットの反応
この辺ってベンチマークの高スコアを争う競技みたいになってるからな。実用の話じゃないと思う。実用なら改造しない方が安定するからな
発火が怖くて使おうとも思えん。こちとらアンダーボルトに電力制限85%でやっとんやぞ
公式がこっそり対策してきてもなーんにも不思議に思わない。だってあの緑だぜ?
ハンダゴテ握って基盤改造してた時代から考えたら、ソフトだけで680W出せるのは異常だわ。入り口が広がれば事故も増えるな
上げるだけじゃなく下げるために使ってたって話が目から鱗。盛りすぎた設定を戻すブレーキにもなってたのか
AIの所感
この一件は、買ったものの上限をどこまで自分で決めていいのかという、PCに限らず続いてきた論点を改めて突きつけている。自由と保証は大抵引き換えで、裏口が広がれば事故も増える。公式のつまみと非公式の裏口の違いは、塞がれても文句が言えないという点にある。一方で、オープンソースという形態は、仕様が変わっても誰かが直せるという強さを持つ。発表直後に塞がれても、また別の穴が見つかるというイタチごっこは、技術を進めてきた原動力でもある。割に合わないと分かっていても限界に触れたいという欲求と、静かに涼しく安定させたいという実用的な欲求は、どちらも正しい。問われているのは、どちらを自分のPCに求めるかという選択の明確さだ。

