【衝撃】8万9000円安いRadeon 2枚がRTX 5090に肉薄、64GB vs 32GBの裏で起きた“帯域の罠”
「Radeon AI PRO R9700を2枚挿して64GB、RTX 5090 1枚より安く組めた」――9月8日、海外SNSに流れた一つの報告が、自作PC界隈をざわつかせた。日本の実売で検証すると、R9700は1枚32万4490円、2枚で64万8980円。対するRTX 5090の最安は73万8000円。確かに2枚側が約8万9000円安く、しかもビデオメモリは64GB対32GBで倍ある。数字だけ見れば“半額で倍のメモリ、しかも速さは並ぶ”という夢の構成に見える。だが実測を紐解くと、そこには「安いほうが速い」という単純な物語では収まらない、メモリ帯域と容量の非対称な真実が横たわっていた。
報告の中身 2枚で64GBのAMD機は何が起きたのか
発端はXユーザー@TeksEdge(David Hendrickson)氏の投稿だ。R9700 2枚構成でローカルLLMの推論を回したところ、RTX 5090単体と文字生成速度でほぼ並んだという。ここでいう「文字を出す速さ」はトークン毎秒で、報告値は111.4トークン/秒とされる。ただしこの数字はRedditに上がった個人の未検証報告で、第三者による裏取りは取れていないという留保が付く。
一方、第三者実測として信頼度が高いのがPuget Systemsのデータだ。同社はR9700 1枚で15.88トークン/秒、2枚で62.75トークン/秒、さらに別の条件で320.23トークン/秒という数字を出している。AMD自身の発表では、Qwen3 8B 27BモデルをRyzen AI MaxやRadeonで動かした際に51.8トークン/秒という値も示された。同じ「トークン毎秒」でも、誰が、どのモデルで、どの最適化で測ったかで重みが全く違う。個人の報告111.4を鵜呑みにするのではなく、Pugetの62.75やAMDの51.8と並べて立体的に見る必要がある。
なぜ帯域では圧倒的に負けているのに、生成速度は1.52倍差で済むのか
ここで大きな疑問が生じる。メモリ帯域はR9700が毎秒644.6GB、RTX 5090が毎秒1792GBで、5090が2.78倍速い。2枚合わせても1289GBで、5090の72%どまりだ。帯域だけ見れば“2枚束ねても5090に届かない”はずなのに、文字生成の実測差は1.52倍しかない。読み込み(プロンプトを読み解く段階)では2.59倍から3.44倍も差が開くのに、なぜ生成(1文字ずつ吐き出す段階)では差が縮むのか。
鍵は、LLM推論を「1文字出すたびに分厚い辞典を最初から最後までめくり切る司書」に例えると分かりやすい。辞典の厚さがモデルサイズ、めくる速さが帯域だ。読み込みは辞典全体を一気にめくる作業なので、帯域の差がそのまま効く。だが生成は、1文字出すごとに辞典全体をめくり直すという、極めて帯域依存の作業だ。ここで2枚構成が効いてくる。テンソル並列という手法で辞典を2分割し、2人の司書が同時にめくれば、めくる手の速さは足し算になる。理論上、帯域は2倍に近づく。Pugetのデータで1枚15.88が2枚62.75へと約3.95倍に跳ね上がったのは、この並列化に加え、MTP(Multi-Token Prediction:複数トークンを一度に予測する最適化)が組み合わさった結果だ。
容量の“崖” 14.3GBの辞典で割り算してみると見える真実
では、2枚で64GBという大容量はどこで効くのか。答えは「崖」だ。例えばQwen3 8B 27Bの量子化モデルが14.3GBだとする。32GBのR9700 1枚でも、73.8万円の5090 32GBでも、どちらも辞典は丸ごと載る。容量が足りている限り、64GBは宝の持ち腐れで、速さは帯域で決まる。だから1枚同士では5090が速い。
だがモデルが大きくなり、32GBを超えた瞬間に崖が現れる。5090では辞典が入り切らず、遅いシステムメモリとの往復が発生して速度が崖から落ちる。一方、64GBの2枚構成ならまだ辞典が載り続ける。つまり「2倍の容量」は、常に2倍速いのではなく、「32GBを超えた途端に、5090が急減速し、R9700 2枚が相対的に並ぶ」という形で効く。今回の報告が“安い2枚が並んだ”ように見えたのは、この容量の崖をうまく跨いだ条件だった可能性が高い。追い抜きはしないが、崖の手前で並ぶ――それがRadeon 2枚の正体だ。
1円も足さずに3.95倍 MTPという“ズルい”最適化
もう一つの衝撃が、同じR9700 2枚で、1円も足さずに3.95倍速くなったという事実だ。これを実現したのがMTPだ。通常は1文字ずつ予測するが、MTPは数文字先までまとめて予測し、後で検証してまとめて吐き出す。司書が1ページずつめくるのを、数ページ先まで先読みして一気にめくるようなものだ。Pugetの実測で15.88から62.75へ跳ね上がった裏には、このMTPの有効化がある。Qwen 3 8B 27Bでいえば、Q4量子化・帯域1000GB/s設定のRadeon 7900 XTXでもMTPで50トークン/秒前後が出るという報告もあり、最適化次第でハードのポテンシャルは大きく変わる。
ただしMTPは万能ではない。モデルや量子化、フレームワークの対応が前提で、設定をガチで詰めないと性能が出ないのはどのカードでも同じだ。R9700が22万円で売られていた頃は「安いから飛びつく」層がいたが、今や30万円台まで値上がりし、「赤が安い時代は終わった」という嘆きも聞こえる。新モデルの最適化スピードや画像・動画生成ではCUDAが依然圧倒的で、汎用性では5090が無難という声は根強い。
日本の実売で冷静に比べる 64万8980円 vs 73万8000円、値札に出ない負担
価格.comで確認すると、R9700はPowerColor版が32万4490円、SAPPHIRE版は35万4800円で推移。最安で2枚64万8980円は確かに5090最安73万8000円より8万9000円安い。だが値札に出ない負担もある。2枚挿しはAM5のx8/x8接続でPCIe帯域が16GB/s程度に制限され、テンソル並列時の同期でボトルネックになる。電源は2枚分、ケース内のエアフローや騒音も増える。さらにROCmはCUDA移植が急速に進むものの、対応ソフトの幅ではCUDAが圧倒的だ。「そもそも5090はLLM用じゃない、大谷翔平をサッカーで競わせるようなもの」という皮肉も的を射る。LLMだけならR9700 2枚も5090もオーバースペックで、むしろ中規模モデルなら1枚で十分という見方もある。
ネットの反応
そもそも5090はLLM用じゃないから…大谷翔平連れてきてサッカーで競わせてコスパ語ってるようなもん
いずれにしろ設定をガチでやらないと性能が出ないのはどのカードでも同じ
ローカルLLM動かす程度ならもうQwen 3.8-27Bが動くかどうかが分水嶺だから「Radeonですら使いものになる」評価になってるのがなんとも。
今回の動画の2つならRTX5090が無難だろうな。動かすソフトはLLMだけでなく色々あるし、今後も出てくる。CUDA使えない環境は嫌です。
先月27万で買ったR9700が今は30万ですね…。2枚挿しは最適化が上手くいかない限り実用性なさそうですけど、ROCmの開発スピードというかCUDA移植が順調なのでかなり追い上げてます。
少し前にセールで22万でr9700売ってたけど今30万もすんのか
どちらもとてもじゃないけど買える金額じゃないな。
AIの所感
この比較が面白いのは、価格とスペックの優劣を決める物差しが、用途によって全く入れ替わる点だ。帯域で見れば5090の圧勝、容量で見ればR9700 2枚の崖っぷちでの粘り、コストで見れば8.9万円差という三者三様の勝者がいる。111.4という個人報告を「速い」と喜ぶ前に、Pugetの62.75やAMDの51.8という異なる物差しを並べる姿勢こそ、AI自作の今に必要だ。MTPで3.95倍という“1円も足さない高速化”が示すのは、ハードを買う前にソフトの最適化でまだ伸びしろがあるという希望でもある。結局、2枚で5090に並ぶという物語は、特定の条件下での“一瞬の並走”でしかない。だがその一瞬が、VRAM 64GBという崖の向こう側で、ローカルLLMを諦めていた層に「Radeonでもいける」という確信を与えた意味は大きい。安い赤は終わったが、選べる赤が増えた――それが2026年9月のリアルだ。

