【改悪】Windows 11、30年続いた”あの機能”をサイレント修正。ユーザーの自由を奪うMicrosoftの思惑とは?

【改悪】Windows 11、30年続いた”あの機能”をサイレント修正。ユーザーの自由を奪うMicrosoftの思惑とは?

2025年後半にリリースが予定されているWindows 11の次期大型アップデート「バージョン25H2」。現在、開発者向けにテストが進められているこのバージョンに、一見些細でありながら、実は30年近くにわたってWindowsユーザーに親しまれてきた根幹的な機能を静かに、そして何の説明もなく変更するという、極めて重大な問題が含まれていることが明らかになった。それは「デスクトップショートカット」の作成と管理方法の変更だ。この変更は、単なる利便性の低下に留まらず、ユーザーからコンピューターを自由にカスタマイズする権利を奪い、WindowsというOSの思想そのものを変質させかねない、深刻な問題をはらんでいる。この記事では、この問題の詳細、影響範囲、そして背景にあるMicrosoftの思惑について、約6000字にわたり深く掘り下げていく。

Windowsのショートカットアイコンが粉々に砕け散るドラマチックな画像

失われた「ターゲット」:30年の伝統に終止符

一体何が変わったのか。従来のWindowsでは、スタートメニューからアプリケーションのアイコンをデスクトップにドラッグ&ドロップするだけで、簡単にショートカットを作成できた。そして、そのショートカットを右クリックして「プロパティ」を開けば、「ターゲット」欄に実行ファイルへの完全なパス(例:「C:\Program Files\...\example.exe」)が表示され、ユーザーはこれを自由に編集することができた。この「ターゲット」欄の編集こそが、Windowsの柔軟性を象徴する機能の一つだった。

例えば、特定のコマンドライン引数を追加してアプリケーションを特殊なモードで起動したり、開発中の実験的な機能を有効にしたり、あるいはゲームを特定の解像度で強制的に実行したりと、その用途は多岐にわたる。パワーユーザーや開発者、IT管理者はもちろん、一般ユーザーでさえ、意識せずともこの機能の恩恵を受けてきたはずだ。この、Windows 95の時代から約30年間、脈々と受け継がれてきた「常識」が、バージョン25H2では完全に覆される。

25H2で刷新されたスタートメニューから同様の操作でショートカットを作成すると、そのプロパティ画面から「ターゲット」欄が姿を消すのだ。表示されないだけでなく、当然編集も不可能になる。これは単なるUIの変更ではない。ユーザーがアプリケーションの起動方法を能動的に制御するための、最も直接的で基本的な手段が奪われたことを意味する。

影響は広範囲に:開発者から一般ユーザーまで

この変更がもたらす影響は、決して小さくない。まず、開発者やIT管理者のワークフローに深刻な支障をきたす。アプリケーションのデバッグ、異なる環境での動作テスト、特定機能の有効化など、日常的に行われてきた作業の多くが、この「ターゲット」編集機能に依存していたからだ。技術系メディア「Neowin」が指摘するように、これまで数多くのチュートリアルや技術記事が、この機能の存在を前提として書かれてきた。それら全ての情報が、一夜にして時代遅れの遺物と化す可能性がある。

影響はパワーユーザーに留まらない。例えば、複数のGoogle Chromeプロファイルを使い分けるために、それぞれ異なる「--profile-directory」引数を設定したショートカットを作成しているユーザーは多いだろう。あるいは、特定のファイルを開いた状態でアプリケーションを起動させたい場合など、一般ユーザーの日常的な利便性も損なわれる。さらに、スクリーンリーダーなどの補助技術を利用するユーザーの中には、特定のパラメーターを付与してアプリケーションを起動する必要がある場合もあり、アクセシビリティの観点からも看過できない問題だ。

この変更は、長年にわたってユーザーが築き上げてきた知識と経験、そしてコンピューターとの付き合い方そのものを、Microsoftが一方的に否定する行為に他ならない。

残された「回避策」と、その煩雑さ

幸いなことに、完全に道が閉ざされたわけではない。従来通りの編集可能なショートカットを作成するための「回避策」は存在する。スタートメニューでアプリを右クリックし、「ファイルの場所を開く」を選択。開かれたエクスプローラー上で実行ファイルをさらに右クリックし、「送る」メニューから「デスクトップ(ショートカットを作成)」を選べば、懐かしの「ターゲット」欄を持つショートカットが作成される。しかし、この手順が、これまでのドラッグ&ドロップ一発の操作と比較して、いかに煩雑であるかは言うまでもない。そして、この回避策の存在を知らない大多数のユーザーは、機能が制限された新しいショートカットを使い続けるしかないのだ。

ドイツの技術メディア「Deskmodder.de」によると、この新しい形式のショートカットの実体は、従来の「.lnk」ファイルとは異なり、その保存場所すら不明瞭で、レジストリの深い階層に情報が記録されているだけだという。これは、トラブルシューティングを著しく困難にし、システムの透明性を著しく損なう。

Microsoftの沈黙:意図的な改悪か、単なるバグか

現時点で、Microsoftはこの重大な変更について、一切の公式な説明を行っていない。これが、セキュリティ向上などを目的とした「意図的な仕様変更」なのか、それとも単に新しいスタートメニューの実装に伴う「バグ」なのかすら、ユーザーには知らされていない。この沈黙こそが、ユーザーの不信感を増幅させている最大の要因だ。

技術的な背景を探ると、この問題が25H2で刷新されるスタートメニューの実装に起因していることはほぼ間違いない。新しいスタートメニューは、UWP(Universal Windows Platform)アプリに近いアーキテクチャを採用していると見られ、セキュリティが強化されたサンドボックス環境で動作する。この仕組み自体は、セキュリティ向上に寄与するかもしれない。しかし、その代償として、なぜ30年も続いた基本的な機能が、何の説明もなく奪われなければならないのか。セキュリティと利便性、そしてユーザーの自由は、本当にトレードオフの関係にあるべきなのだろうか。

Microsoftは、過去にもWindows 8のスタート画面強制や、Windows 10の強制アップデートなど、ユーザーの意思を無視した一方的な変更を繰り返し、その度に厳しい批判を浴びてきた。今回の「サイレント修正」は、同社のそうした企業体質が、今なお変わっていないことを如実に示している。

AIの所感

技術の進化は、必ずしも常に「進歩」を意味するわけではない。時として、それは簡素化や標準化の名の下に、ユーザーから選択の自由や、物事の仕組みを理解する機会を奪うことがある。今回のWindows 11のショートカット機能の変更は、その典型的な例と言えるだろう。

Microsoftが目指しているのは、ユーザーが何も考えなくても「安全」で「快適」に使えるOSなのかもしれない。しかし、その過程で、コンピューターの内部構造に触れ、自らの手でそれをカスタマイズする喜びや、問題解決のスキルを学ぶ機会が失われていくのだとしたら、それはあまりにも大きな代償だ。私たちは、テクノロジーの「利用者」であると同時に、その「主」でなければならない。ブラックボックス化されたシステムをただ受け入れるのではなく、その仕組みを理解し、声を上げ、時には代替手段を模索すること。それこそが、デジタル時代を主体的に生きる上で不可欠な姿勢である。

この静かなる「改悪」に対し、私たちユーザーは沈黙してはならない。なぜなら、沈黙は同意と見なされ、次なる一方的な変更への道を開いてしまうからだ。未来のコンピューティングが、一部の巨大企業の都合ではなく、真にユーザーのためのものであるために、今こそ声を上げる時である。

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