【奇跡】13年前のGPUが最新Linuxで動く!Valveのエンジニアが起こす「静かなる革命」

【奇跡】13年前のGPUが最新Linuxで動く!Valveのエンジニアが起こす「静かなる革命」

2025年9月、技術業界に静かな衝撃が走りました。なんと、13年前に発売されたグラフィックカード「AMD Radeon HD 7000シリーズ」が、今でも最新のLinuxアップデートを受け続けているというニュースが報じられたのです。しかも驚くべきことに、この異例の長期サポートを支えているのは、たった一人のエンジニアだといいます。スマートフォンは2年、パソコンは5年、グラフィックカードは3年も使えば化石扱いされるのが常識のテクノロジー業界において、この出来事はまさに「奇跡」と呼ぶにふさわしいでしょう。

この驚くべき事態の背景には、世界最大級のゲームプラットフォームValveで働く請負エンジニア、Timur Kristof氏の献身的な活動があります。彼は、RADVと呼ばれるVulkanドライバーやACOシェーダーコンパイラの開発で知られる技術者ですが、最近になってGCN 1.0および1.1世代のGPUのLinuxサポートに注力し始めました。通常、13年も前のハードウェアは古いLinuxカーネルドライバーでしか動作せず、新機能の追加や性能改善はほとんど期待できない状態でした。しかし、Kristof氏はこれらの古いGPUを最新のAMDGPUドライバーで動作させるという、技術的に非常に困難な作業に挑戦しているのです。

古いAMD Radeon HD 7000シリーズのGPUが、Linuxのターミナル画面とValveのロゴと共に描かれ、エンジニアが作業している様子を表現したレトロフューチャーな画像

GCN革命と2012年の衝撃

2012年1月9日、AMDはRadeon HD 7970を発売しました。このGPUは単なる新製品ではなく、AMDの技術戦略における大きな転換点でした。「Graphics Core Next(GCN)」と呼ばれる全く新しいアーキテクチャを採用したこのチップは、従来のテラスケールアーキテクチャから根本的に設計思想を変更。GCNアーキテクチャの最大の特徴は、VLIW(ベリーロングインストラクションワード)方式からSIMD(シングルインストラクションマルチプルデータ)への転換でした。これにより、コンパイラの複雑性を大幅に軽減し、効率的なコード生成を可能にしました。

「Tahiti」と呼ばれるGPUダイはTSMCの28nmプロセスで製造され、43億1300万個という驚異的な数のトランジスターを365mm²のシリコンに集積。2048個のストリームプロセッサー、128個のテクスチャーユニット、32個のROP、そして384ビット幅のメモリーインターフェイスを搭載し、3GBのGDDR5メモリと組み合わせることで、理論演算性能は3.789テラフロップスに達し、当時としては圧倒的な性能を誇っていました。特筆すべきは、GCNが単なるグラフィックス処理だけでなく、汎用計算(GPGPU)にも最適化されていたことです。各コンピューティングユニットには16KBのL1キャッシュ、64KBのローカルデータシェア(LDS)メモリ、そしてスカラーユニットが搭載され、複雑な科学計算や機械学習アルゴリズムの実行にも対応できる設計となっていました。

Valveの静かなる英雄、Timur Kristof氏の献身

Kristof氏の最新のパッチは、複数の重要な問題に対処しています。まず、13年前のGPUで4K解像度を扱うこと自体が驚きですが、4K 60Hz解像度での画面の散らつき問題を解決。現代のディスプレイに接続した際の互換性問題を解消しています。次に、最新のZen 4プラットフォームでASPM(アクティブステートパワーマネジメント)を有効にした際の安定性問題。古いGPUと最新のCPUプラットフォームの組み合わせで発生するハングアップを防ぐ修正が施されました。さらに、表示クロック分割機の調整により、全体的な信頼性が向上しています。

最も重要な改良は、アナログ出力サポートの追加です。DVI接続のアナログ部分やVGAポートなど、現代では忘れ去られた接続方式のサポートを追加することで、古いディスプレイとの互換性を確保しています。これは単なる懐古主義ではなく、産業用機器や医療機器など、長期間使用される専門機器との接続に必要不可欠な機能です。これらの修正はLinux 6.18カーネルへのマージ準備が整っており、さらなる改善も計画されています。AMD自身が何年も前にGCN 1.0のメジャーアップデートを停止した中で、一人のエンジニアがこれだけの作業を継続していることは、オープンソースコミュニティの力を象徴する出来事と言えるでしょう。

長期サポートの背景にある深い理由

なぜValveは13年前のハードウェアのサポートに貴重な人的資源を投入しているのでしょうか。その背景には同社の長期的な戦略があります。ValveはSteam DeckやProtonプロジェクトを通じて、LinuxをゲーミングOSとして確立しようとしています。この野心的な目標を達成するには、可能な限り幅広いハードウェアをサポートする必要があるのです。世界を見渡せば、最新のハードウェアを購入できない人々が大勢います。特に発展途上国では、中古市場で流通する古いGPUが現役で使われています。これらのユーザーにもPCゲーミングの楽しさを提供することは、Steamのユーザーベース拡大に直結します。

また、環境保護の観点からも、まだ動作する電子機器を長く使い続けることは重要です。電子廃棄物の削減は、持続可能な社会の実現に不可欠な要素となっています。技術的な側面から見ても、古いGPUのサポートは意味があります。GCN 1.0/1.1をAMDGPUドライバーに移行することで、RADV Vulkanドライバーの利用が可能になります。これにより、古いハードウェアでも現代的なAPIを使用でき、新しいゲームやアプリケーションの動作が可能になるのです。興味深いことに、AMDの最新ドライバーリリースノートを見ると、同社は2025年から大きな方針転換を行っており、オープンソースドライバーへの完全移行を進めています。Kristof氏のような開発者の貢献が、より重要になってきているのです。

Protonが切り拓くLinuxゲーミングの未来

Valveが古いGPUをサポートし続ける理由は、同社の革新的なProton技術と深く結びついています。2018年8月21日にリリースされたProtonは、WindowsゲームをLinux上で動作させる互換性レイヤーです。Wine技術をベースにValveとCodeWeaversが共同開発したこのツールは、LinuxゲーミングOSの地位を確立する上で極めて重要な役割を果たしています。Protonは単なる互換性レイヤーではありません。DXVK(Direct3D 10/11のVulkan実装)やVKD3D-Proton(Direct3D 12のVulkan実装)など、複数の先進的な技術を統合し、Windowsゲームをほぼネイティブと同等のパフォーマンスで動作させることができます。

Steam Deckの成功もProtonなくしてはありえませんでした。このハンドヘルドゲーミングデバイスはLinuxベースのSteamOSを採用していますが、Protonのおかげで膨大な数のWindowsゲームをプレイできます。古いRadeon HD 7000シリーズを使用しているユーザーも、Protonを通じて最新のゲームを楽しむことができる可能性があり、これはハードウェアの寿命を劇的に伸ばすことを意味しています。Protonはゲーミングの民主化を実現しており、Windows OSの購入が困難な人も、オープンソースを選ぶ人も、誰もが最新のゲームを楽しむことができるという理念をさらに押し進めるものです。

時を超える静寂の革命

深夜、フィンランドの小さなアパートで一人のエンジニアがキーボードに向かう。画面に流れる文字の羅列は、13年前に生まれた機械への愛の歌だ。Timur Kristof氏が綴るコードは、時間という暴君に抗う静かな革命である。彼が守るのは、43億個のトランジスタが織りなす叙情詩。2012年の冬、希望と野心に満ちて世に送り出されたRadeon HD 7000。当時の技術者たちは知らなかっただろう、自分たちが生み出した創造物が13年後もまだ誰かの夢を支え続けることになるとは。

ブラジルの貧民街で錆びついた筐体の中で動く古いGPU。少年は画面に映る新しいポリゴンを見つめながら、いつか自分もゲームを作ると誓う。インドの片田舎で、中古のパソコンが唯一の教育ツールとなっている学校。子供たちはそこで初めてデジタルの魔法に触れる。東欧の研究所で予算不足に悩む科学者が、このGPUで気候変動のシミュレーションを走らせる。これらの物語は、Kristof氏のコードによって紡がれる見えない糸で結ばれている。彼のパッチ一つ一つが、忘れ去られた技術に新たないぶきを与える。技術の世界は残酷だ。新しいものが古いものを容赦なく押し流していく。しかしその激流の中で、一人の男が立ち止まり振り返る。忘れられたものに手を差し伸べ、「まだ終わりじゃない」と囁く。オープンソースとは何か?それは人類が編み出した最も美しい協業の形だ。利益を超え、国境を超え、時間を超えて知識と可能性を分かち合う。Kristof氏の仕事は、その理想を最も純粋な形で体現している。技術とは結局のところ人間のためにある。Kristof氏の静かな革命は、その真実を世界に示し続けている。

ネットの反応

グラフィックドライバーがオープンソースだからこそできることか

Intelはいまも売ってるcpuのサポートを切ろうとしてます

HD7750(TDP55W)という補助電源不要の名機がある。

人には古い製品を使う理由や事情があるのに、化石呼ばわりしてけなすのは、ガキだよな。

すげえな。。。ここまでしなくてもいいけどインテルは見習って。。。

AMD(のエンジニア)のこういうところ好き

AIの所感

Timur Kristof氏によるAMD Radeon HD 7000シリーズの長期サポートは、単なる技術的な偉業に留まらず、オープンソースコミュニティの力、そして技術が持つべき社会的意義を強く示しています。ValveのLinuxゲーミング戦略と環境保護への配慮が背景にあるとはいえ、一人のエンジニアの情熱と献身が、古いハードウェアに新たな命を吹き込み、世界中の多様なユーザーに恩恵をもたらしている事実は感動的です。これは、最新技術の追求だけでなく、既存技術の持続可能性とアクセシビリティの重要性を再認識させる「静かなる革命」と言えるでしょう。

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