【なぜ戻した】有機ELを手放した任天堂の賭け。Switch 2の液晶が選んだのは黒じゃなくて光だった
【戻した】有機ELに溺れた会社があえて液晶へ。Switch 2の画面が選んだのは「黒」ではなく「光」だった
暗い洞窟のゲーム画面を並べ比べた人なら、気づいたかもしれない。2021年に登場した有機ELモデルでは真っ黒に沈むはずの場面が、最新のNintendo Switch 2ではほんのり明るく浮かんで見える。任天堂は有機ELモデルを世に出したわずか4年後、2025年6月5日発売のSwitch 2で液晶画面に戻った。累計販売台数は2026年6月末時点で2368万台。新機種なのに画面方式が「後退」したと受け取る声は根強いが、公式資料と各媒体の測定値を積み上げると、そこには別の設計思想が浮かび上がってくる。
黒の深さで劣るはずの液晶、実測はほぼ互角
まず両者の仕組みの違いをおさえておきたい。液晶は背面のバックライトが発光源で、液晶層の電圧で通す光の量を調整して映像を作る。一方、有機ELは画素そのものが発光し、黒は発光を止めて表現する。液晶で黒が完全な黒にならないのは、この光漏れが暗さの限界を決めるためだ。
では、Switch 2の液晶は初代の液晶と比べて劣化しているのか。米TechSpotの測定では、Switch 2のコントラスト比は1068対1。同じ媒体が測った初代Switchの液晶は1060対1で、ほぼ同じ水準だった。黒の深さだけを切り取れば「有機ELから液晶への交代は実質的に損をしていない」という見方に、一定の根拠があることになる。
画素数は2.25倍、HDRにも初対応
任天堂が液晶で得たものの第一弾は「細かさ」だ。公式仕様によると、有機ELモデルの画面は7.0インチ・1280×720で画素数は約92万1600個。これに対しSwitch 2は7.9インチ・1920×1080の広色域液晶で、画素数は約207万3600個、きっちり2.25倍に増えている。色域もDCI-P3基準で99.6%という発売当初の測定値が報告されており、発色の面でも有機ELモデルに引けを取らない。
さらに見落とせないのがHDR対応だ。技術ディレクターの佐々木哲也氏らは2025年4月の開発者会見で、「有機ELモデルでも提供できなかったHDRを、今回は実現した」と明言している。黒の深さでは構造的に譲る一方で、細かさと明暗のダイナミクスでは前の機種を超える——液晶採用は単なる「戻し」ではなく、得るものと失うものを天秤にかけた結果だった。

120HzとVRR、しかし残像問題という代償
動きの滑らかさも液晶世代の売りだ。Switch 2の本体画面は最大120Hzの書き換えと、フレームの生成に合わせて更新タイミングを変えるVRRに対応する。60Hzでの書き換え間隔が約16.67ミリ秒、120Hzでは約8.33ミリ秒に短縮される計算だ。2026年9月のアップデートではテレビ接続時のVRRにも対応した。
ただし代償もある。国内測定サイトが60Hzで測った応答速度の平均は17.06ミリ秒、別の海外媒体の測定では約33ミリ秒という結果も出ている。初代Switchの液晶が約21ミリ秒だったことを踏まえると、速い動きの場面での残像感の指摘は的を射ている。しかも本体設定でリフレッシュレートを自由に切り替える機能はなく、120Hz時の応答速度は測定すらできない状況だ。書き換え回数が増えても、画素の切り替えが追いつかなければ残像は消えない。この点は今も評価が真っ二つに割れている。
「有機ELに戻った」前例はソニーにもある
実はこの選択、ゲーム機では珍しくない。ソニーのPS Vitaは2011年の初代で5インチの有機ELを採用していたが、2013年の改良モデルでは同じ5インチの液晶に切り替えた。解像度を変えずに、本体を約20%薄く約15%軽くし、電池駆動時間を約3.5時間から約4.5時間へ延ばしている。画面方式は本体全体の設計とトレードオフの関係にある——両社の発表資料は、そのことを雄弁に物語っている。
任天堂と有機ELの距離感も、実は距離があった。開発者インタビューによれば、任天堂は3DSの時代から有機ELを研究していたが、長年条件が合わず採用に至らなかったという。有機ELモデルでは画面を6.2インチから7インチに広げるため、表示用ICをフィルム上に載せて画面の縁で折り返す特殊な実装を敢行し、薄いパネルのおかげで大型の背面スタンドを収められた。開発が始まる前から模索してきた部品を、ようやく載せられたのがあの1台だったのである。
処理性能に張った賭け、そして原価の壁
Switch 2の開発は2019年頃に始まったとされる。有機ELモデルの発売より前だ。開発者らは口を揃えて「新しい遊びを実現するため処理速度の向上を優先した」と語る。画面もメモリもストレージも強くするにはコストがかかる。その中で本体全体のバランスを取った——これが公式の説明の骨格だ。
数字にもその思想は表れている。内蔵ストレージは有機ELモデルの64GBから256GBへ4倍に、電池容量は4310mAhから5220mAhへ約1.2倍に増えた。一方で重さはコントローラー込みで約534gと、有機ELモデルの約420gから約100g増加している。携帯モードの駆動時間目安も約2〜6.5時間で、有機ELモデルの約4.5〜9時間より短い。 コストのかかる画面方式をあえて選ばないことで、性能と容量にリソースを回した構図が読み取れる。
価格面でも、任天堂は2025年5月の決算説明会でSwitch 2のハード利益率が初代Switchより低くなる見通しを示していた。2026年5月の値上げ後は国内専用モデルが税込5万9980円、有機ELモデルが4万7980円で差は1万2000円だが、処理性能も容量も違う両機種の差額をそのままパネル原価の差とは呼べない。液晶と有機ELの仕入れ価格を比較した資料は確認されておらず、「有機ELをやめて浮いた金を処理性能に回した」と断定できる社内資料も存在しない。焼きつき回避が理由という説も、公式には裏付けられていない。
有機EL版は来るのか
なお、有機ELという方式自体がHDRと両立しないわけではない。ValveのSteam Deck OLEDは7.4インチの有機ELでHDR表示時にピーク輝度1万ニト級を謳い、電池持ちも前モデルから30〜50%伸びたと説明している。任天堂の液晶選択は「有機ELの敗北」ではなく、あくまで一台の筐体の中の配分の話だ。実際、韓国メディアは2026年7月、業界関係者の話として任天堂が有機EL版Switch 2を検討していると報じた。米メディア経由でサムスンが有機ELパネルの採用を働きかけているとの報道もあり、初代が4年かけて有機ELモデルを迎えた前例を考えれば、時期の問題という見方も成り立つ。ただし任天堂の正式発表はなく、現時点では噂の域を出ない。
ネットの反応
有機EL版ほどのくっきり感はない。美しいけど、黒の表現はちょっと弱いかな。洞窟の場面だと違いが分かる
黒が浮くし色温度が寒色すぎる。ガンマも色温度も設定で変えられないのが残念。スマホでもできるのに
8インチの大画面とHDRで十分満足。残像も言われないと気づかない。OLEDミスだと言う声も多いけど、俺は気にしたことはない
120Hz対応なのにリフレッシュレートを選べないのは不便。格ゲーやFPSやる人は応答速度の遅さが気になるはず
AIの所感
Switch 2の液晶採用を「有機ELからの後退」と呼ぶのは簡単だが、測定値を並べると実像はもっと複雑だ。コントラストは初代液晶とほぼ同じ水準を保ちながら、画素数は2.25倍、HDRと120HzとVRRを手に入れている。代わりに失ったのは黒の締まりと60Hz時の応答速度、そして設定の自由度だ。任天堂が守りたかったのは、暗い映像の深遠さではなく、明るい環境でゲームが見えること、そして処理性能と容量に回す原価の原資だろう。ガンマカーブが暗部を持ち気味に調整されているのは、格闘ゲームやFPSでの視認性を優先した設計と読める。画面方式の良し悪しは「何を遊ぶか」で反転する。暗い名作をじっくり味わうなら有機ELモデルの黒は今も魅力的だし、速い動きと明るい画面が主戦場ならSwitch 2の液晶は十分すぎるほど進歩している。有機EL版が噂どおり実現したとき、任天堂が初めて「両方得た機種」を提示できるのか——その答え合わせは、そう遠くない未来に来そうだ。
(画像出典: 任天堂「Nintendo Switch 2 仕様」ページ ©Nintendo Co., Ltd.)