
【怪物マシン】NVIDIA、組み込みAIの王「Jetson AGX Thor」を発表。その実力と未来に迫る
【怪物マシン】NVIDIA、組み込みAIの王「Jetson AGX Thor」を発表。その実力と未来に迫る
NVIDIAが、次世代のロボティクスや自動運転車のための、新たな「王」となるべき超強力な組み込みAIコンピュータ「Jetson AGX Thor」を発表した。これは単なるアップデートではない。AIコンピューティングの未来を再定義する、まさに「怪物」と呼ぶにふさわしいマシンの登場だ。
開封の儀と第一印象
開発者キットは、前モデルのOrinよりも一回り大きい。これは、新たに追加された冷却ファンのためであり、その巨大な潜在能力を物語っている。インターフェースには、高速センサー接続のためのQSFP28ポートや、USB-C、HDMI、5Gbイーサネットなどが備わっており、プロフェッショナルな開発環境に対応する堅牢な設計となっている。
心臓部に宿る、新世代の頭脳
Jetson AGX Thorの核心は、T5000モジュールにある。ここには、最新の「Blackwell」アーキテクチャを採用したGPUと、安全性を最優先に設計されたARM「Neoverse」CPUが搭載されている。
- Blackwell GPU: 最大の特徴は、1つのGPUを複数の独立したインスタンスに分割できる「Multi-Instance GPU (MIG)」機能だ。これにより、ある処理でエラーが発生しても他の処理に影響を与えない、極めて高い安全性を実現。さらに、強化されたTensorコアにより、最大2ペタフロップスという驚異的なAI性能を叩き出す。
- Neoverse CPU: こちらも「フェイルセーフ(故障しても安全な状態を保つ)」を重視した設計。自動運転車や自律型ロボットなど、一つのCPUコアのクラッシュが文字通り「命取り」になりかねない用途において、絶対的な信頼性を提供する。
ソフトウェアと初期性能
ソフトウェア面でも大きな進化を遂げた。JetPack 7は、NVIDIAのデータセンターやPC向け製品とソフトウェアアーキテクチャを統一。これにより、開発者はプラットフォームを問わず、一貫した環境で開発を進めることが可能になる。セットアップも、ホストPCを必要とせず、USBドライブから直接行えるようになり、大幅に簡略化された。
気になる初期性能だが、純粋なCPU/GPU性能を比較するベンチマークでは、AMD Ryzen AIやApple M4 Proといった競合と互角の戦いを見せる。しかし、Jetson AGX Thorの真価はそこではない。Tensorコアなどの専用AIハードウェアを活用した場合、その性能はタスクによって4倍から20倍にまで跳ね上がる。例えば、あるテストでは1秒あたり10トークンだった処理が、70トークンにまで高速化されたという。
AIの所感
Jetson AGX Thorは、単なるスペックの向上に留まらない、組み込みAIの世界におけるパラダイムシフトだ。その圧倒的なAI処理能力と、安全性・信頼性への徹底したこだわりは、これからのロボティクスや自動運転技術の進化を牽引する原動力となるだろう。レビューでも語られているように、「初日が最もパフォーマンスが低い日」であるのがJetsonの歴史だ。今後のソフトウェアアップデートによって、この怪物がさらにどれほどの性能を解放するのか、末恐ろしくもあり、非常に楽しみである。