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【悲報】1時間15円の文字起こしAIが出たのに、なぜ手元のグラボは消えないのか。電気代1円 vs クラウド15円の残酷な計算

【悲報】1時間15円の文字起こしAIが出たのに、なぜ手元のグラボは消えないのか。電気代1円 vs クラウド15円の残酷な計算

1時間の会議を文字にするのが15円。9月3日、Microsoft AIが「世界で最も速く、最も正確で、最も安い音声認識」と題して発表した「MAI-Transcribe-2」の衝撃は、数字の小ささにある。音声1時間あたり0.10ドル、9月4日のドル円155円台で換算すると15.6円だ。自販機の飲み物より安く、1時間の録音が文字になる。

しかも速さはOpenAIの文字起こしより10倍、正確さは60言語平均で誤り率5.2%と、一番を三つ並べた。ならば、手元のグラボでWhisperを回している人たちは何をしているのか。答えは、損得だけでは決まらない。三つの一番には全て条件が付き、手元派が消えない理由は、お金以外の場所にある。

三つの一番を分解する。誰が測ったのか、いつまでなのか、何と比べたのか

発表のタイトルは強気だが、その三つの一番はどれもMicrosoft自身が言っていることだ。第三者が横から測って認めたわけではない。そこを割り引いて読む必要がある。

まず速さ。OpenAIのGPT-Transcribeより10倍、ElevenLabs Scribe V2より7倍、Google Gemini 2.5 Transcribeと比べても5倍と、相手の名前を実名で挙げている。速さの比較は、第三者機関「Artificial Analysis」の測定に基づくと明記されている。ここだけは外の物差しを使ったと、自分で線を引いている。

次に正確さ。使われたのは、60言語の読み上げ音声を集めたベンチマーク「FLEURS」だ。60言語の平均で誤り率(WER)5.2%、この試験では1位だと主張する。100単語中5つほど聞き違える水準だ。だが、同じ発表記事の中に、Artificial Analysisの誤り率の順位では2位と書かれている。自分で「FLEURSでは1位、外のランキングでは2位」と並べて書いているのだ。報道によれば、独立系の首位はアリババの「Qwen3 Real-time ASR」という別のモデルで、Microsoftはそのモデルより正確だとは主張していないという。

さらに、日本語だけの数字は公表されていない。60言語の平均が5.2%でも、日本語が3%で、話者の少ない言語が12%かもしれない。平均はデコボコを全部均してしまう数字だ。「日本語で1位」とは言えない。リアルタイムの文字起こしについても、発表には一言も触れられていない。録音済みファイルをまとめて処理するのは速いが、喋りながら字が出る用途が速いかは不明だ。持ち込み専門のコインランドリーで、家まで取りに来てくれるサービスかどうかは書いていないのと同じだ。

クラウドの文字起こしAIと手元のグラボで動くWhisperを比較するイメージ、1時間15円と電気代1円のコスト対決

1時間15円は本当に最安か。2.2倍という地味な真実と、空白の通常価格

1時間あたりのドル建てで並べると、景色は一変する。MAI-Transcribe-2が0.10ドル。ElevenLabs Scribeが0.22ドル、OpenAI GPT-Transcribeが0.27ドル、Deepgram Nova-3が0.29ドル前後、OpenAI GPT-4o Transcribeが0.36ドルだ。確かに0.10ドルが一番安い。看板に嘘はない。

だが、2番目に安いScribe(0.22ドル)との差は、2.2倍でしかない。10倍安いといった桁が変わる話ではない。コインランドリーで言えば、隣の店が220円で、新しい店が100円という程度だ。確かに安いが、相場から完全に外れた値段ではない。

そしてこの100円には、注釈が付いている。公式発表に「年末までの期間限定価格」とはっきり書いてあるのだ。オープン記念セールだ。最も大事な事実は、期間が終わった後の通常価格がどこにも書かれていないことだ。通常料金の欄が空白なのだ。

手がかりは、前世代のMAI-Transcribe-1にある。今年4月に出た前モデルは0.36ドルだった。今回の表で一番高い側と同じ数字だ。もし年末に前と同じ値段へ戻れば、一番安いから一番高いへと逆転する。もちろん戻ると決まったわけではない。末置きかもしれないし、もっと下がる可能性もある。だが「分からない」という事実そのものが、判断材料になる。来年の料金表が分からない店に、家の洗濯機を売り払って乗り換えられるかという問題だ。

値段の流れを見れば、文字起こしの価格は数年ずっと下がり続けている。Scribeが出た時は0.40ドルで半額割引を付けていたが、今は0.22ドルが通常価格だ。割引の値段がそのまま普通になった形だ。今回も0.10ドルが普通になる可能性はある。ただし、前モデルの5ヶ月で3.6倍安くなったという急落ぶりを見れば、値動きの激しさだけは覚悟しておく必要がある。

正確さの数字も、単純には比べられない。6月に出たMAI-Transcribe-1.5は43言語で誤り率3.7%だった。今回の5.2%より良いように見えるが、言語数が43から60に増えている。増えた17言語が難しい言語なら、平均が上がるのは当たり前だ。同じ試験で科目を増やしたら平均点が下がるのと同じで、良くなったとも悪くなったとも言えないのが正しい扱いだ。公式が書いていない「なぜ速いのか、なぜ安いのか」も一切不明だ。モデルの大きさもパラメータ数も、どんな仕組みで軽くしたかも書かれていない。結果だけが並んだ発表だ。

手元のグラボで回すと、電気代は1円。だが元を取るのに2000時間かかる

手元派の主役は、OpenAIが2022年に公開した「Whisper」だ。重みが誰でも落とせる形で出ており、最新版「large-v3」は2023年末から主役が変わっていない。4年近く同じものが使われ続けている、AI界では珍しい長寿モデルだ。重みが公開されているため、世界中で「同じ服を畳み方だけ変えて小さくした」改良版が出回っている。その代表が「faster-whisper」だ。

素の実装ではVRAMが10GBほど必要なWhisper large-v3も、faster-whisperのint8量子化を使えば、2.5〜3GBで動く。数字の持ち方を荒い定規に持ち替える量子化だが、精度をほとんど落とさずに速さが3割上がる報告もある。3GBなら、安いゲーミング用グラボの6GBでも余裕で収まる。

速さも実用的だ。1時間の音声を何分で文字にできるかという「実時間の何倍か」で見ると、RTX 3050で6.5倍、RTX 3060(int8)で約8倍、RTX 4070で約12倍、RTX 3090で12.5倍、RTX 5090なら25倍だ。8倍なら、1時間の会議が7分半で文字になる。コーヒーを入れて戻ってくる間に終わる。

そして電気代だ。RTX 3060で8倍速なら、1時間の音声を7.5分で処理する。PC全体で250W使うとして、7.5分なら約31Wh。日本の家庭の電気は1000Whで31円が目安なので、電気代はおよそ1円になる。向こうが15円で、こっちは1円。電気代だけなら手元の圧勝だ。

だが、家の洗濯機には買う時のお金がかかる。RTX 3060 12GB版を中古で探すと、2万円台から4万円台後半まで幅が広く、間を取って3万円で計算すると、1時間あたりの差額14.6円(15.6円−1円)で元を取るのに約2000時間かかる。毎日1時間分を文字にして5年半、毎日2時間なら2年9ヶ月だ。週5時間(月20時間)の会議を文字にするなら、クラウドは月312円、年3700円程度。手元は月20円、年240円。差額は年3500円で、3万円を埋めるのに8年以上かかる。文字起こしのためだけにグラボを買うなら、お金の面ではクラウドが勝つ。

それでも手元が消えない三つの理由。もう持っているから

クラウドが安いのは事実だ。1000時間分を文字にしても1万5000円ちょっとで、グラボ1枚より安い。壊れる心配も、Pythonやドライバーの設定で半日溶かす心配もない。多くの人にとって、クラウドが正解だ。

それでも手元派が消えないのは、お金以外の理由が三つあるからだ。

一つ目は、期間限定価格だ。2000時間という計算は、15円がずっと続く前提で成り立っている。もし0.36ドルに戻れば、1時間56円になり、差額は55円。元を取るのは550時間、毎日1時間なら1年半に縮む。値上げされたら他の店に移ればいいという反論もある。APIの乗り換えは呼び出し先を変えるだけで済む場合も多い。だが、移るたびに固有名詞の書き方や癖が変わり、後の処理を作り直す手間がかかる。移れることと、移るのがタダなことは別だ。

二つ目は、音声そのものを渡せないという壁だ。クラウドに投げるのは、録音を他人の機械に渡すことだ。会議には未発表の製品名が、診察や取材、家族の会話など、渡せないものは世の中にいくらでもある。下着をコインランドリーに持っていきたくないのと同じだ。今回の発表には、データをどこに置くのか、どれだけ保存するのか、学習に使われるのかどうかが一切書かれていない。書いていないことと、やっていることは別だが、発表を読んだだけでは判断できない。判断できないなら渡さないという選択は、自然だ。さらに、誰が喋ったかという「話者分離」の正確さは、誤り率に入らない。会議で一番欲しいのはそこなのに、公表されていない。

三つ目が、一番大きい。「もう持っているから」だ。2000時間の計算は、グラボをこれから買う人の計算だ。だが、この動画を見ている人の多くは、すでにゲーム用に買ったグラボを持っている。文字起こしのために買った機械ではないのだ。すでに持っている人にとって、追加でかかるのは電気代の1円だけだ。買うかどうかの話と、持っているものを使うかの話は別なのだ。家に洗濯機があるのは、洗濯代を節約するためだけではない。夜中に回せる、雨の日に困らない、下着を人前に出さなくていい。そういう理由の集まりで置いてある。文字起こしのグラボも、同じだ。

さらに、手元は対応言語が99言語と、クラウドの60言語より広い。数は多いが平均誤り率は10%前後とされ、精度では明確に負けている。広く浅くと、狭く深くの違いだ。古いPCでもCPUだけで動く実装もあり、寝ている間に回す手もある。回線が落ちても、飛行機の中でも、電気さえあれば動く。店が閉まったら終わりのコインランドリーとは違う。

量と中身で決める。今日から試せること

両者の言い分をまとめれば、こうなる。量が多くて中身が外に出せるならクラウドが強い。量が少なくて中身が出せないなら手元が強い。量が多くてしかも中身も出せないなら、グラボを買う意味が出てくる。毎日会議を取り、外に出せない仕事なら、迷う余地はない。

最も多いのは、両方を使い分ける人だ。人に見せていい録音はクラウドへ、見せられない録音は手元へ。白いシーツはコインランドリーで、下着は家で洗うように。

今日からできることは、自分の録音を1時間分、両方で試してみることだ。OpenRouter経由なら15円で試せる。手元にグラボがあるなら、同じ音声をfaster-whisperでも回してみる。60言語の平均より、自分の会議での誤り率の方が、よほど役に立つ。ベンチマークは他人の音声で測った数字だからだ。

一番安い、一番速い、一番正確。この三つには必ず条件が付いている。一番安いのは年末まで、一番速いのは他社のクラウドと比べた話、一番正確なのはその会社が選んだ試験の中での話だ。誰が測ったのか、いつまでなのか、何と比べたのか。この三つを聞くだけで、大抵の発表は正しく読めるようになる。

ネットの反応

電気代1円は衝撃だった。でもグラボ3万を考えるとクラウドの勝ちってのが正直で好感持てる

会社の会議は絶対外に出せないから手元一択。量が多いからグラボ買う理由になった

期間限定ってのが一番怖い。来年いくらになるか分からないなら家の洗濯機は売れない

AIの所感

洗濯機とコインランドリーという例えが、驚くほど的確だと感じた。値段だけで比べれば、答えは簡単に出る。だが、人は値段だけで道具を選ばない。渡せないものがあるか、すでに持っているか、止まった時に困るか。そういった、お金に換算しにくい理由の束が、最終的な選択を決める。1時間15円という安さが、手元のグラボを殺さなかったのは、まさにその証拠だ。AIの性能競争が、クラウドの高みから、手元の現実へと戻ってきた象徴的な出来事だと思う。

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