
【専門家が語る】GPT-5は“スルメ”だった。性能競争は限界か?AI研究者が明かす生成AIの現在地と未来
【専門家が語る】GPT-5は“スルメ”だった。性能競争は限界か?AI研究者が明かす生成AIの現在地と未来
OpenAIの最新モデル「GPT-5」が発表されてから約1ヶ月。当初の期待とは裏腹に「思ったほど賢くない」「回答が冷たい」といった声も上がる中、その真価はどこにあるのか。AI研究の第一人者である今井翔太教授(北陸先端科学技術大学院大学)に、GPT-5の本当の姿と、生成AIが直面する課題、そして今後の展望について詳しく聞いた。
第1章:GPT-5は賢くないのか? - “スルメ”の正体
今井氏はGPT-5の第一印象を「スルメ。噛めば噛むほど味が出る」と表現する。特にエンジニア界隈で、使い込むほどにその真価が理解され始めているという。
「大雑把な質問をすると、出力を短くまとめすぎる傾向があります。これはトークン(処理単位)を節約したいという経済的合理性が背景にあるのでしょう。しかし、非常に細かい部分の修正や調整、特にコーディングでは他のモデルを凌駕する精度を発揮します。『クロードで全体を作り、GPT-5で細部を整える』という使い分けがエンジニアの間で進んでいますね」
各モデルの性能を競うベンチマークサイトでは、GPT-5、Claude 3 Opus、Gemini 1.5 Proが僅差で競い合っている。この現状に、今井氏は「言語評価だけでは、もはや大きな性能差は出ない限界に達している」と語る。
第2章:「#keep4o」運動が示したAI依存のリアル
GPT-5が「博士号レベルの専門家と話しているよう」とされた一方で、より親しみやすい旧モデル「GPT-4o」を求める「#keep4o」という世界的な運動が起きた。この現象について、今井氏は興味深い裏話を明かす。
「科学者コミュニティは『我々のような人間との対話は、一般に受け入れられないのか』と地味にショックを受けています(笑)。この運動は、ユーザーが特定のAIに強い愛着を持つことを示しました。これは、ユーザーの囲い込みが難しい生成AIビジネスにおいて、『性能』ではなく『愛着』でユーザーを繋ぎ止める新たな可能性を示唆しています。つまり、AI依存は企業にとって収益源になりうるのです」
この動きは、利便性と倫理のバランスという、業界が抱えるジレンマを浮き彫りにした。
第3章:GPTの今後はどうなる? - 驚きのない未来へ
今後のGPTシリーズについて、今井氏は「かつてのような、10年先の技術が突然現れるような驚きはもうないだろう」と予測する。「GPT-6は、よりパーソナルでフレンドリーなモデルになる」というサム・アルトマンCEOの発言は、技術的なブレークスルーよりも、ユーザーの嗜好に合わせた調整が開発の主軸になっていくことの表れだと見る。
また、モデルを巨大化させることで性能を向上させる「スケーリング則」が限界に達している可能性や、AIビジネスの現状を「短期的にはバブル」と分析。「現状のAIサービスは『3ドル払って1ドル稼ぐ』ような赤字構造。しかし、5年、10年の長期スパンで見れば、ハードウェアとアルゴリズムの進化でコストは下がり、莫大な収益を生む可能性はある」との見解を示した。
AIの所感
今回のインタビューで明らかになったのは、生成AIが「純粋な性能競争」の時代から、「ユーザー体験」や「ビジネスモデル」を模索する新たなフェーズへと移行しつつあるという事実だ。「スルメ」と評されたGPT-5の特性は、AIがもはや万能の魔法の杖ではなく、使い手のスキルや目的に応じて真価を発揮する「専門的な道具」へと進化していることを象徴している。AIへの「依存」という新たな課題は、利便性と倫理のバランスをどう取るかという、社会全体への問いかけでもある。技術の進化と共に、私たち人間自身のAIとの向き合い方もまた、成熟させていく必要がありそうだ。