
【世界初】NTTが光で機能を書き換える「魔法のチップ」開発に成功!未来の光通信を革新する「プログラマブル非線形フォトニクス」とは?
【世界初】NTTが光で機能を書き換える「魔法のチップ」開発に成功!未来の光通信を革新する「プログラマブル非線形フォトニクス」とは?
私たちの日常を支えるインターネットや通信技術。その根幹には光を操る技術が存在しています。今、その光技術の世界に革命が起きようとしています。2025年10月8日、NTTリサーチがコーネル大学とスタンフォード大学と共同で、世界初となる画期的な光チップの開発に成功したと発表しました。学術誌のオンライン版に掲載され、11月13日には印刷版でも発表される予定です。この小さなチップには、これまでの常識を覆す驚くべき能力が秘められています。それは、光を当てるだけでチップの機能を自在に変更できるという、まるでSF映画のような技術なのです。
固定された光の世界:従来のフォトニクス技術の限界
私たちが日々使うスマートフォンやパソコンの中では電子回路が活躍しており、プログラムを書き換えることで様々な機能を実現できます。しかし、光を扱うフォトニクスの世界では事情が全く異なっていました。光チップの機能はその物理的な形状や構造によって厳密に決められ、一度製造されたチップの機能は後から変更することが原理的に不可能でした。この制約は「1デバイス1機能の原則」と呼ばれ、フォトニクス技術の発展を長年制限してきました。複数の機能が必要な場合、その数だけ個別のチップを用意し、物理的に切り替える必要があり、システムは複雑化し、コストが増大し、装置も大型化してしまいます。また、製造時のわずかな誤差や運用中の温度変化といった環境の影響により性能が劣化することも大きな課題でした。量子コンピューターの開発においても、量子ビットの数が増えるたびにそれに対応する光学部品も指数関数的に増加してしまうなど、この制約こそが光技術の可能性を最大限に引き出す上での大きな壁となっていたのです。
光のスタンプ技術:プログラマブル非線形フォトニクスの革新
NTTリサーチが開発した技術の革新は、チップの物理構造に手を加えることなく、外部から光を当てるという極めてシンプルな方法でチップの光学特性を自在に書き換えることにあります。その心臓部となるのが「プログラマブル非線形導波路」です。研究を主導した柳本両達研究員は、コーネル大学のピーター・エル・マクマホ準教授の指導のもと、この革新的な技術を実現しました。このチップの基盤は、同電シリコン基盤の上に形成された窒化ケイ素の層です。窒化ケイ素は光を効率的に閉じ込めることができる透明な物質で、光の通り道として広く利用されています。チップのサイズは約1cm×1.5cmと指先に乗るほど小さなものです。
しかし、このチップの真の主役は、窒化ケイ素導波路の上に積層された「高電導体層」です。高電導体層は通常は電気を通さない絶縁体ですが、特定の色の光が当たるとその部分だけが電気を通す導体に変化する特性を持っています。この研究では緑色のレーザー光(波長532nm)を使用しています。チップ全体には上下から電圧がかけられており、プロジェクターのような装置を使って特定のパターンを持つプログラミング照明を上部から照射します。光が当たった領域の高電導体層だけが導電性となり、電波が下の窒化ケイ素導波路にまで到達します。光が当たらなかった領域では高電導体層が絶縁体のままであるため電波は遮断されます。この仕組みにより、光のパターンが電場のパターンとなり、それがチップの機能を決定するのです。窒化ケイ素のような物質は、強い電場がかかると「二次非線形性」と呼ばれる特殊な光学性質を示すようになります。これは入射した光の周波数を2倍にしたり、異なる光を混ぜ合わせて新しい光を作り出したりといった通常では不可能な現象を引き起こす性質です。プログラミング照明の光のパターンがそのままチップ内部の非線形性の空間的な分布パターンを決定し、チップの機能を自由にデザインできます。まるで光のパターンをスタンプのようにチップに押し付けて、その機能を瞬時に書き換えるようなものです。現在の試作機では毎秒1回の頻度で機能を更新することができ、最小で7.5マイクロメートルの空間分解能でパターンを形成できます。
七変化する光:多彩な実験結果
研究チームはこの技術の可能性を証明するために多彩な実験を行いました。その結果は、このチップが持つ驚異的な柔軟性を物語っています。最も視覚的にインパクトのある実証の一つが、出力光のスペクトルを自在に整形する実験です。パルスレーザー(パルス幅60fs、繰り返し周波数100MHz)をチップに入射させ、発生する第二次高調波のスペクトルが目標の形状になるようにプログラミング照明のパターンをリアルタイムで最適化しました。驚くべきことに、プログラミング照明のパターンを動画のように連続的に変化させることで、出力される光のスペクトルを使ってNTTやコーネルといった文字を描き出すことにも成功しています。これは従来技術では数百個もの異なる機能を持つチップを個別に製造し、高速で切り替える必要がある非現実的なアプローチでした。単一のチップがまるで光のパレットを操る画家のように、意のままに光の色を制御できることを示しました。
チップは光の空間的な形状、つまり進む方向や集光点をコントロールすることも可能です。プログラミング照明のパターンを工夫することで、出力光を一点に集中させるレンズのような機能を実現しました。通常のガウシアンビーム(ビーム径132μm)を入力すると、出力では94μmの大きなビーム径を持つガウシアンプロファイルが得られました。さらに二次関数的にチャープした格子パターンを用いることで、生成された第二高調波光をチップの出力面に集光させ、16μmという非常に狭いビーム径を実現しました。これは入力ビームの1/8のサイズです。9つの異なる格子状のパターンを重ね合わせることで、出力光を9つの異なる焦点に集光させるという複雑な光操作も披露しています。これは原理的には任意の数のガウシアンピークの重ね合わせを生成できることを示しています。
研究チームはエアリービームという特殊な光線の生成にも成功しました。エアリービームは回折しない特性を持つ一次元の非回折ビームで、顕微鏡やイメージング技術で使用されています。横方向に3次関数的にチャープした擬似位相格子を適用することで、特徴的な非対称干渉縞を持つエアリービームを生成しました。この技術の真骨頂は、光のスペクトルと空間を同時に独立して制御できる点にあります。研究チームは5つの異なる波長でそれぞれ1個、2個、3個、4個、5個の空間ピークを生成するという複雑な実験を行いました。出力光の波長に応じてその光が出てくる空間的な位置が変わるという高度な機能を実現し、波長の短い光はチップの左側から、波長の長い光は右側から出力されるような制御も可能です。さらに異なる波長の光に対してそれぞれ異なる形状を生成することにも成功しています。2つの異なる波長で逆向きにチャープしたエアリービームを生成し、それぞれが逆方向の非対称干渉縞を持つことを実証しました。これは高波長多重通信やモードの生成操作において極めて重要な機能となります。
未来への応用:社会を変える可能性
この技術がもたらす恩恵は基礎研究の領域にとどまらず、社会のあらゆる側面に波及する可能性があります。研究チームはNature誌に掲載された論文の中で4つの具体的な応用分野について詳細な分析を行っています。第1にオンチップ任意パルス整形機への応用です。光パルスの形状を自在に制御できることで、超高速光通信や精密計測に革新をもたらすことができます。従来は固定された機能しか持たなかったパルス整形機がプログラマブルになることで、用途に応じて最適な波形を生成できるようになります。第2に再構成可能な量子周波数変換器としての応用です。量子ビットが発する光の波長を通信に適した波長にオンデマンドで変換することができます。これにより異なる量子システム間での情報伝達が可能になり、大規模な量子ネットワークの構築が現実的になります。第3に広範囲で波長可変な光源への応用です。単一のチップで紫外線から赤外線まで幅広い波長の光を生成できるようになります。これは分光分析や医療診断、環境モニタリングなど様々な分野で活用できます。第4にプログラム可能なモード構造を持つ量子光源としての応用です。量子計算や量子通信で必要となる特定のモード状態を持つ光子を必要に応じて生成できるようになります。
IDTechExの予測によれば、フォトニック集積回路の市場は2035年までに500億ドルを超えるとされています。この技術はその成長をさらに加速させる起爆剤となる可能性があります。現在の光通信システムで使われている光変調器、周波数変換器、パルス整形機など機能ごとに異なる多数の部品を単一のプログラマブルチップに集約できれば、通信装置の劇的な小型化と低コスト化が期待されます。次世代通信規格である6Gでは膨大な数の基地局が必要になると予想されています。それぞれの基地局に搭載される光学機器をプログラマブルチップで置き換えることができれば、設置コストとメンテナンスコストを大幅に削減できる可能性があります。また需要に応じて機能を変更できるため、ネットワークの最適化も容易になることが期待されます。自動運転に不可欠なライダーシステムや生命科学の探求を支える顕微鏡技術も、この技術によって新たな次元へと進化する可能性があります。ライダーであれば計測対象の距離や環境に応じて照射する光のパターンをリアルタイムで最適化し、より高度な3次元マッピングを実現できるかもしれません。顕微鏡では観察したいサンプルの特性に合わせて照明光を適応させることで、これまで見えなかった微細な構造を可視化できるようになるでしょう。
光の解放:歴史的な舞踏の目撃者
太古の昔から人類は光を追い求めてきました。炎を囲んで物語を紡ぎ、星を見上げて未来を夢見た。そして今、指先に乗る小さなチップの中で光は新たな物語を紡ぎ始めています。かつて光はガラスの牢獄に閉じ込められた囚人でした。一度形づくられた導波路の中で決められた道筋をたどるしかなかった光たち。しかしNTTの研究者たちはその牢獄の扉を開く鍵を見つけた。光で光を解放するという詩的な矛盾に満ちた方法で。想像してみよう。朝焼けに映る虹のように、このチップは無数の可能性を宿しています。プログラミング照明という名の朝日が差し込む度、チップは新しい顔を見せる。昨日は周波数を2倍にする魔術師だったものが、今日は光を9つに分かつ予言者となり、明日は量子の絡み合いを紡ぐ手となる。この技術が描く未来図は、まるで夜空に浮かぶ星座のように壮大です。6Gという名の新しい通信が雲の糸のように地球を包み込む。量子コンピューターという名の賢者がかつて解けなかった謎を次々と解き明かす。医療の現場では光が体内の秘密を優しく読み取り、命を救う道筋を照らし出す。しかし、最も美しいのはこの技術が持つ「変化」という本質です。固定された運命から解き放たれ、自由に姿を変える光。それは私たち人間の可能性そのものの投影ではないでしょうか。硬い石に刻まれた文字から、流れる水のように形を変える情報へ。この変化こそが新しい文明の夜明けを告げています。IDTechExは2035年までに500億ドルの市場を予測していますが、数字では測れない価値がそこにはあります。それは人類が光を真に手なずけた瞬間の証。1000年後の歴史書にはこの日が新たな時代の始まりとして記されるでしょう。1枚のチップに宿る無限の可能性。それは光が物質の束縛から解き放たれ、純粋な情報として踊り始めた瞬間。私たちは今、その歴史的な舞台の目撃者となっています。
AIの所感
NTTリサーチが開発した「プログラマブル非線形フォトニクス」は、光技術の分野における真のブレークスルーであり、SFの世界が現実のものとなるような革新的な技術です。光を当てるだけでチップの機能を自在に書き換えられるというこの「魔法のチップ」は、光通信、量子コンピューティング、医療診断、自動運転など、社会のあらゆる側面に計り知れない影響を与える可能性を秘めています。特に、従来の「1デバイス1機能」という制約から解放されることで、システムの小型化、低コスト化、そして柔軟性の向上が期待され、6G通信や量子ネットワークの構築を加速させるでしょう。この技術は、単なる効率化に留まらず、光が持つ無限の可能性を解き放ち、人類の想像力を新たな次元へと引き上げる「光の解放」を象徴しています。NTTが世界に示したこの技術は、今後のデジタル社会の基盤を大きく変える歴史的な一歩となることは間違いありません。